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28.初めての気持ち⑤

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-08-11 16:00:17

「あのっ、どうやったら……頼綱《よりつな》のモヤモヤ、減らせる?」

 気が付いたら私、頼綱を見上げてそう問いかけていた。

 頼綱は一瞬瞳を見開くと、小さく吐息をついて、「今からひとつ、試してみたいことがあるんだけど……いいかな?」って淡く微笑むの。

「試してみたい、こと?」

 頼綱のことだから変なことを言い出すんじゃないかと思って思わず身構えたら、くすくす笑われてしまう。

「いくら俺でも公共の面前で変なお願いはしないから安心おし?」

 言われても、頼綱《よりつな》は時々かなりズレたことをやらかしてくれるから、私、半信半疑だよ?

「――申し訳ないんだけど、指輪とは別に頼んでおいた例のものを持ってきてもらえるかな?」

 ソワソワする私をよしよしってなだめるようにして、頼綱が店員さんにそう声をかけた。

「頼、綱?」

 何が始まるんだろうとすぐそばの頼綱を見上げたら、「大した事じゃないよ?」って微笑まれて。

「お待たせしました」

 ややして、目の前に綺麗にラッピングされた小箱を差し出された私は、キョトンとする。

「開けてごらん?」

 包装済みということはコレに関しては既に支払いが済んでいるということかな。

 指輪のサイズは今から測るはずだからそれはないとして、箱が長細くないところを見るとネックレスでもなさそう?

 思いながら包みを丁寧にほどくと、中から出てきたのは紫色と水色の石が交互に並んで四つ葉のクローバーを形作っている、スイングイヤリングだった。

「石は花々里《かがり》の誕生石の紫水晶《アメジスト》と、俺の誕生石の藍柱石《アクアマリン》だよ」

 Clover《クローバー》には「She《C》 lover《彼女は恋人》」っていう意味があるのだと、前に小町《こまち》ちゃんから聞いたことがある。

 誕生日に彼氏の沖本先輩からクローバーデザインのネックレスをもらった際にそう説明されたって、嬉しそうに話してく

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    「花々里《かがり》の指は本当華奢で女性らしいね」 頼綱《よりつな》も別の意味で同じ様なことを思ったのか、私の手を取ってまじまじと指先を見つめながらそんなことを言って、照れるからやめてぇ〜!って思いながらも、どこかフワフワと幸せな気持ちだったのも事実です。 指輪の裏に刻む刻印は、私の〝婚約〟指輪には「Y to K」、頼綱の〝結婚〟指輪の方には「K to Y」というかなりシンプルな文言を刻む事になって。 各々、後日入籍日を連絡してイニシャルの側に入れてもらうことになったの。 セットになるのは結婚指輪同士じゃないの?って思ったりしつつ。 頼綱のことだからもっとこだわるのかと思っていただけに、そんなこともないみたいでそっちにも違和感を感じてしまう。 そもそも〝私の結婚指輪の刻印が空白〟になったままで、「私のコレには何にも入れないの?」ってそっちが気になって。 ソワソワしながら聞いたら、頼綱がニヤリとして、「そっちには少し、キミに内緒《サプライズ》で小細工がしたいんだ」 って店員さんと裏の方でこそこそ話すの。 それは頼綱らしい行動だけど、サプライズとはいえ、仲間外れなのが凄く寂しく感じました! 寂しさを誤魔化すように「何を仕掛けるつもりなの?」とド・ストレートに問いかけた私に、頼綱《よりつな》は「出来上がってからのお楽しみだよ」ってニッコリ笑って教えてくれなかったの。 頼綱が楽しそうなのは嬉しいけれど、私、内心めちゃくちゃ不安だし、出来れば教えて欲しかったです! だってだって……婚約指輪も大事だけれど、結婚指輪はきっと。 コレから先、ずっと私が身につける事になるものだから。 何をされちゃうの?って落ち着かないのは仕方ないよね?「悪いようにはしないからそこだけは安心おし?」 眉根を寄せて黙り込んでしまった私の頭をふんわり撫でてくるの、ズルイよ、頼綱。 私、それをされると、何だか頼綱のしでかすあれこれをつい許せてしまうの、見透かされているみたいですっごく悔しいです!

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     そう思った私は、頼綱《よりつな》の方を見上げて、「頼綱、あの……」 付けて?って言おうとしたけれど、頼綱と目が合った途端、何だか気恥ずかしくて言えなくなってしまった。 結果中途半端にモゴモゴしたら、頼綱が「せっかくだし。〝僕〟に付けさせてもらえるかい?」って察してくれた。 私は小さくうなずいて前を向いて。 何だか照れて頼綱の方を見られないの、何でだろ。 頼綱の方を見ないままにあえてまっすぐ鏡を見つめた私だけど、見えなくても頼綱が私の髪の毛を避ける気配や、耳に触れる微かな吐息がすぐそばで感じられて、それはそれで照れ臭くてたまらなくなった。 いっそのこと、とギュッと目を閉じてやり過ごそうとしたけれど、それだと余計に感性が研ぎ澄まされる気がして慌てて目を開けて。 ふと視線を転じたと同時、目の前に置かれた鏡越しに頼綱と目が合ってしまってドキッとさせられる。「花々里《かがり》、そんな色っぽい顔しないで? ――キスしたくなる」 イヤリングを耳に付けてくれながら、頼綱が吐息まじりに私にしか聞こえないぐらいの小声、耳元でそうささやいてきて。 私は思わず耳を押さえて頼綱を振り返った。「ほら、出来た。――すごく似合ってる」 頼綱《よりつな》はそんな私の視線をクスッと笑ってかわすと、鏡を指さして「ご覧?」とうながすの。 私は目端が潤むのを感じながら、何とか鏡を見て。 頼綱が選んでくれたイヤリングが耳元で小さく揺れているのを目にして、じんわりと心が温かくなった。「指輪が仕上がるまでの間は、毎日これを付けていてくれるかい?」 頼綱がそう言って、私の髪の毛をそっと撫でて、ついでのように微かに耳朶《じだ》にも掠《かす》めるように触れながら問うてくる。 私はその感触に反応しそうになった身体を戒めるようにギュッと力を入れて踏ん張ると、それでも「ん……」と喘ぎ声だか返事だか分からない吐息を落とした。 私の返事《その声》を受けた頼綱が

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    「コレとコレ。彼女のを1つずつと、こっちのは〝私〟用のをお願いしたんだけど……納期はどのくらいかかりそうかな? なるべく早め希望なんだけど」 さっき選んだ、雲間から覗く望月デザインの婚約指輪と、水鏡の結婚指輪を指さして頼綱《よりつな》が言って。 私、と言う人称は初めて聞いたけど……仕事の時とか、公の場ではそっちを使ってるのかな。 私は店員さんがどんな表情でそれを受けるんだろうって気が気じゃなかったんだけど、さすがプロ。 目の前で馬鹿ップル丸出しでイチャイチャしていた私たちに呆れることなく、すぐににこやかに対応してくださった。「採寸と……もちろん刻印もご希望ですよね? こちらですと、最短で3週間、最長で1ヶ月半ほどお時間を頂きたいのですが」 言われて頼綱が小さく吐息を落として、「まぁそれは仕方ないよね」とつぶやいた。 てっきりもっとワガママを言うんじゃないかと心配していた私は、案外すんなり頼綱が引き下がったことにホッとしたのと同時に、すごく意外な気持ちがして何だか〝モヤモヤしながら〟彼を見遣った。「ん? どうしたのかね、花々里《かがり》」 小首を傾げるようにして問われた私は「何でもないっ」って慌ててうつむく。 と、そんな私の方へほんの少し身体をかがめた頼綱が、耳元に唇を寄せて小声で言うの。「ひょっとして……もっとゴネて欲しかった?」 クスッと笑われて、私は真っ赤な顔で頼綱を睨みつけた。 悔しいけど〝図星〟だったんだもん。 だってね、さっき頼綱、言ったんだよ? ――不安だから頼綱《おれ》のものだという印をつけさせて? みたいなこと。 それをそんなにアッサリ引き下がられたら、あれは嘘だったのかな?って悲しくもなるじゃない。「頼綱のバカ! もう知らないっ」 何だか自分ひとりが勘違いして盛り上がっていたみたいで、泣きたいぐらいに虚しくなって。 思わずそっ

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     ――頼綱《よりつな》は、かなり女性の目を引く容姿をしているみたいです! 話したら口調が独特でちょっぴり取っ付きにくいところがあるから、そういうのをマイナス評価と見なして離れていく子もいるかもしれない。 でも、もしかしたら逆にそこがクールで良いという子だっているかもって思うの。 現に私は頼綱のちょっぴり古風な物言いが嫌いじゃないし。 そう思った途端――。 私、今すぐにでも頼綱の腕をグイッと引っ張って、綺麗に整えられた髪の毛をグシャグシャにかき乱して、ビシッと着こなしたスーツをしわくちゃにしてやりたくなった。「――有難う。そんな風に言っていただけて嬉しいよ」 彼女さんを溺愛しているところが素敵だと、綺麗な店員さんから熱い視線を向けられた頼綱が、どこか得意そうにそう言って微笑んで。 それを見た瞬間、私の中で何かがプチッと弾けた。「頼綱っ!」 気が付いたら私、頼綱のスーツの裾をギュッと引っ張って頼綱を睨みつけていた。 だって、頼綱が私以外に笑いかけてるのを見るの、何だか凄く凄く嫌だったんだもん。 生まれて初めて感じたこのモヤモヤは……とっても気持ち悪くて落ち着かない。 ぐちゃぐちゃに感情がかき乱されているのを隠せないまま、頼綱を見上げた視界が涙でうるりと滲んだ。 そんな私の顔を見詰めた頼綱が、「花々里《かがり》、もしかして……ヤキモチを妬いてくれてるの……?」 驚いた顔をして恐る恐る問いかけてきた。「……やき、もち?」 それが網の上で焼いたお餅のことじゃないのは、いくら食いしん坊の私でも分かる。 うそ……。 これが、俗に言う嫉妬《ヤキモチ》というものなの?「……頼綱。これ、すごくヤダ。……

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     水鏡リングには男性用もあって、頼綱《よりつな》とお揃いになるのはそちらの指輪らしい。  雲間からのぞく、満月を移す水鏡。  なんだかロマンチックで素敵だな、と思った私だったけれど、頼綱のリングも自分が付けるものに左右されるとなるとどうしても言わずにはいられない――。「あの……頼綱は……私が選んだので……いいの?」 そわそわしながら問えば、「むしろキミが選んだの〝が〟いいんだよ」と、ギュッと手を握られる。  ヒッ。  頼綱さんっ。  こんなところでそんな甘々なオーラ出さないでくださいっ!   て、店員さんの目が気になりますっ!  戸惑う私を知らぬげに、私の手をにぎにぎしたまま頼綱が続ける。 「この2つのデザインなら、婚約指輪も結婚指輪もどちらも問題なく重ね付け出来て、花々里《かがり》をより独占できている感じがすると思わないかね? ――考えただけで、俺はすごく嬉しいんだけど」 ちょっ、そこで私の反応を窺《うかが》うように上目遣いとか……。  わーん、頼綱さんっ!  そんなド・ストレートな恥ずかしい告白を、店員さんの前でやらかさないでくださいっ! 私だけじゃなく、何故かジュエリートレイをささげ持ったままの店員さんまで照れて赤くなってしまわれたじゃないですかぁ〜っ! 「彼女さんは彼氏さんに、とってもとっても愛されていらっしゃるんですね」 挙げ句、店員さんってば何故か頼綱に熱い視線をチラチラ投げかけながら、ちょっぴり羨《うらや》ましそうにそう仰って。 頼綱がそんな目を向けられたことに私、何だかよく分からないけど凄くモヤモヤして……胸の奥がチクチクと痛んだ。  ――何だろう、コレ。私、こんな変な気持ち、初めてだよぅ。 何だかよく分からないけど凄く嫌!って言うのは分かって。 だから私、頼綱《よりつな》にはこういうところでこんなことをするの、もう少しペースダウンしていただけたら有難いな、と思ったりするのです。 ――そう、せめて人前でだけでもいいから目立たないよう大人しくしていて欲しい。 そうすればきっと、こんな目で貴方のこと、他の女性が見つめること、なくなるから。 そこまで考えて、  ――ん? ちょっと待って。何……それ。  って自分の気持ちにソワソワする。  頼綱は、控え目に言っても頭脳明晰容姿端麗。  別に職業《

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